刺身の厚さで味が変わる——薄造りと厚切りの科学

刺身の厚さで味が変わる——薄造りと厚切りの科学

寿司店でマグロの刺身を食べると、しっかりとした厚みがあります。一方、ふぐ刺しは皿の模様が透けて見えるほど薄い。

なぜ魚によって厚さが違うのでしょうか。実はこの違いには、魚の肉質と味わいを最大限に引き出すための科学的な理由があります。


厚切りの理由——マグロは薄いと美味しくない

マグロやカツオなど赤身魚は、身が柔らかい特徴があります。

柔らかい魚肉を薄く切ってしまうと、噛む間もなく口の中で崩れてしまいます。「コリッ」とした歯ごたえを感じる前に飲み込んでしまい、満足感が得られません。

そこで、厚く切ることで咀嚼の時間が増え、「ねっとり」とした食感や脂の旨味をじっくり味わえるようになります。

赤身魚に厚切りが適する理由は3つあります。まず、身質が柔らかいこと。赤身魚はコラーゲンなどの結合組織が少なく、繊維がほぐれやすい性質を持っています。次に、旨味成分が多いこと。厚みがあることで口の中で旨味が長く広がります。そして、脂のコクを感じられること。咀嚼時間が長くなることで脂質の風味が十分に引き出されるのです。

マグロやカツオは7〜10mm程度の厚さが一般的です。


薄造りの理由——フグは厚いと噛み切れない

一方、フグやヒラメなど白身魚は、身が硬く締まっています。

特にフグは外敵から身を守るため、体を膨らませる進化を遂げました。その過程で肋骨を失い、代わりに非常に発達した筋肉で内臓を守っています。この筋肉は人間の顎でも噛み切りにくいほどの弾力を持っています。

もしフグを厚く切ったら、噛み切ることに意識が集中してしまい、繊細な旨味を味わう余裕がなくなってしまうのです。

白身魚に薄造りが適する理由も3つあります。まず、身質が硬いこと。コラーゲンが多く弾力が強いため、薄くすることで食べやすくなります。次に、脂の融点が低いこと。白身魚の脂は30〜35℃で溶けるため、薄く切ることで舌の上ですぐに溶け、まろやかな旨味が広がります。そして、香りが立つこと。表面積が増えることで、繊細な香りがふわっと広がるのです。

ヒラメやタイは2〜5mm、フグは皿が透けるほど薄い1〜2mmに切られます。


厚さと醤油の関係

厚さは醤油との相性にも影響します。

厚切りの刺身では、醤油が表面だけに付きます。そのため、刺身本来の味と醤油の風味が別々に感じられ、メリハリのある味わいになります。

一方、薄造りは魚全体に調味料が馴染みやすくなります。ポン酢やもみじおろしを使うフグ刺しでは、この特性が活かされています。薄さによって調味料と魚の味が一体となり、絶妙なハーモニーを生み出すのです。


繊維を断ち切る——もう一つの「厚さ」の技術

美味しい刺身には、厚さだけでなく「繊維の切り方」も重要です。

魚の筋肉は繊維が一定方向に走っています。この繊維に対して直角に包丁を入れると、筋が断ち切られて口当たりがよくなります。

逆に繊維に沿って切ってしまうと、いくら厚さを調整しても噛み切りにくく、食感が悪くなってしまいます。

これが「刺身を引く」と表現される理由の一つです。柳刃包丁の長い刃を使い、一度の動作で繊維を断ち切ることで、滑らかな切り口と繊細な食感が生まれるのです。


まとめ

刺身の厚さには、科学的な理由があります。

赤身魚であるマグロやカツオは、身が柔らかいため厚切り(7〜10mm)にすることで食感と旨味を引き出します。白身魚であるフグやヒラメは、身が硬いため薄造り(1〜5mm)にすることで歯ごたえと香りを楽しめます。また、白身魚の脂は薄造りにすることで舌の上で溶けやすくなります。醤油の絡み方も異なり、厚切りは表面だけに付き、薄造りは全体に馴染むという特徴があります。

次に刺身を食べるとき、その厚さに込められた職人の工夫を思い出してみてください。一切れの厚みが、魚の美味しさを最大限に引き出すために計算されていることがわかるはずです。

厚さだけでなく、刺身を食べる温度も味わいに大きく影響します。冷蔵庫から出したてより少し常温に戻した方が、脂の旨味を感じやすくなるのです。


参考文献・出典

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この記事を書いた人

ちんちら

刺身をこよなく愛するブロガー

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